「恋愛しないセクシャリティ」、アセクシャルって?

性的マイノリティの知名度が少しずつ浸透してきた昨今。しかし、そんな性的マイノリティの一角である「アセクシャル」についての認知度は、それほど高くないのではないでしょうか。「恋愛感情・または性的感情を抱かない」といわれているアセクシャルについてまとめました。

そもそもアセクシャルとは?

アセクシャルとは、「恋愛感情・または性的感情を他人に抱かないセクシャリティ」のことです。近年では性的欲求と恋愛感情を明確に切り分け、「性欲は抱かないけれど恋愛感情は抱く人」をアセクシャルとする向きもあります。ちなみにそれとは逆の指向である「性欲はあるけれど恋愛感情を持たない人」は「アロマンティック」と呼ばれることがあります。この記事では「恋愛感情を抱かず、性愛的に人を好きにならない人」を指す言葉としてアセクシャルを取り上げます。

そんなアセクシャルを象徴するアイコンは、「アセクシャル・フラッグ」と呼ばれるものです。近年ではカラフルなレインボーフラッグを目にする機会が増えて、「性的マイノリティのアイコン=レインボーフラッグ」というイメージも定着してきているもの。しかしアセクシャルを象徴するフラッグはレインボーカラーではなく、「黒・グレー・白・紫」の4色からなるフラッグです。黒はアセクシャル全体を、グレーはアセクシャルか否か迷っている「グレイアセクシャル」を、白はセクシャリティ全体を、紫はアセクシャルコミュニティを指しているといわれています。

「恋愛しない」アセクシャルの人を好きになったら?

アセクシャルの人は、性愛的・恋愛的な意味で人を好きになりません。なので、「アセクシャルの人に片思い」というシチュエーションでは、相手の意思や気持ちを最優先してあげましょう。片思いしている身からするととても辛いことですが、すっぱり諦めてしまうのが理想です。

ただし、最近では「セクシャリティは移り変わるもの」という考え方も出てきています。「アセクシャルだと思っていたら、後に違うセクシャリティだったと自覚した」というケースもあるのです。どうしても諦めきれないのであれば、相手と自分の気持ちを擦り合わせたうえで折り合いをつけ、いい落としどころを見つけることが大切です。

また、くれぐれも恋愛至上主義な考え方を押し付けないことも重要です!「人を好きになれないなんて寂しい」「僕(私)ならそんな気持ちを変えてあげられるかもしれない」というワードはご法度。好きな気持ちが先走って出てしまった言葉だったとしても、相手からの信頼はガタ落ちしてしまうでしょう。パートナーとしてはおろか、友人や知人としての関係を終わらせてしまわないように気をつけることが大切です。

言われてモヤッ…アセクシャルに対する「不適切な言葉」

世間では、まだまだ「恋愛=何よりも一番大切なもの」という風潮が根強いもの。そんななか、アセクシャルの神経を逆撫でする「地雷ワード」も当然あります。アセクシャルが言われがちな、イラッとするワードの一例をご紹介します。

「本当に好きな人に出会えてないだけ」

「本当に好きな人って何だよ!?」と、アセクシャル当人からすれば混乱しか残さないワードがこちら。当人としては待てど暮らせどそんな人ができないから「アセクシャルなんだろうな」と冷静になっているのに、自分の中の「当たり前」を押し付けて水を差してくるパターンです。

もしも言われたら作り笑いでごまかすか、「〇〇さんは最近どうですか?」と積極的に自分以外へ水を向けて切る抜けるのがベストです。あまりにしつこいようであれば、思い切ってSNSのアカウントをブロックしたりリムーブしたりして少しでも距離をとりましょう。

「まだ子供なんだね」

そんなことを言ってくる人は果たして「大人」なのか…?となってしまいますよね。このワードには、恋愛してはじめて一人前の大人・大人になれば好きな人ができるもの…という価値観が見え隠れしています。しかし、「恋愛しない=子供っぽい」という方程式はもはや時代遅れ。ましてや、恋愛を必要としないセクシャリティに向かってそんなことを言ってくるのは的外れもいいところなのです。

「何で恋愛しないの?」

素朴な疑問なのでしょうが、アセクシャル当事者を物凄く疲れさせるワードがこちら。「ずっとこうだから」「しようと思わないから」以外、答えられることが何もないからです。それで納得してくれる相手ならまだいいのですが、なかには根掘り葉掘り恋愛しない理由を聞いてくる人も。「恋愛しないのはよっぽど特別な理由があるに違いない」と勘ぐって、他人の領域にまで踏み込んでくるのです。

「恋愛できないことに対する言い訳でしょ?」

恋愛が「できる人」からすれば、アセクシャル当事者は恋愛から逃げているように見えるのかもしれません。しかし、それは大きな間違い。恋愛というリングに上がっていないし、上がろうとも思っていないからです。逆にそんなことが言えてしまう人は、その意思も指向もない一般人を勝手に担ぎあげて「お前はボクシング選手だ!戦え!俺たちを楽しませろ!」とリングへ放り出しているのと同じです。

「万が一私が恋愛から逃げているとして、それであなたは何か困るんですか?」と笑って切り返せばOK。あまりに不快であれば、ガツンと「迷惑なんで」と告げれば良いのです。

「ひどい恋愛をしたんだね」

恋愛しないことを、とにかく深刻な問題だと捉えている人が発しがちなワードです。この手の人は、逆に言えば「傷やトラウマがなければ恋愛するのが当たり前」と考えています。根本にあるのは善意や気遣いなのでしょうが、当事者からすると「やりにくいな…」と思ってしまうもの。現状が幸せであれば、なおさらです。

「冷たい、ロボットみたい」

「恋愛感情とそれ以外の情」を無意識に切り分け、無意識に優劣をつけている人が言いがちなワードがこちら。そもそもアセクシャルは恋愛・性愛的な感情を抱かないだけであって、家族愛や友情、仲間同士の絆は持っています。けして「人間嫌い」な人ではありません。それでも、恋愛しないというだけで「冷たい人」と誤解されてしまうことは少なくないのです。

あまりに腹に据えかねるようであれば「逆に、あなたは好きな人以外はどうでもいいんですか?何の親しみも情もわかないんですか?」と訊いてみるのも良いでしょう。

「それって治せるの?」

治すも何も、アセクシャルは病気ではありません!もしそう聞かれたら、「私はどこも悪くないですよ」と笑って教えてあげましょう。当事者と向き合う人は、くれぐれもそんなことを聞かないように。当事者がカミングアウトしてくれている時点で、ある程度の信頼を置いてもらえているのです。

「理想が高すぎるだけ」

高い理想を持てるのは、ある意味で恋愛する・できる人の特権です。「そもそも恋愛自体しないのに、理想も何もあるかい!」とイラッとしてしまった当事者は少なくないはずです。そもそも恋愛を謳歌している人は、「今の恋人とは妥協して結果付き合ってる」という状態なのでしょうか?なかにはそういう人もいるのでしょうが、恋愛は良くも悪くも相手に無意識な理想を投影して酔ってる状態が常です。一概に「理想が高いだけ」と言い切られても、当事者としてはモヤモヤが募る一方ですよね。

あるある…アセクシャルが体験・実感しがちなこと

「恋愛することが当たり前な人」と「アセクシャル当事者」には大きな隔たりがあるもの。アセクシャル当事者の多くが体験しがちな、「あるある体験談」をまとめてみました。

恋バナや恋愛相談の話題についていけない

恋バナは盛り上がりやすい話題ですが、アセクシャル当事者にとってはついていけない話題。とくに女性は、「中高生のときの恋バナが苦痛だった」「話題についていけず、愛想笑いだけしていた」という人も少なくないのではないでしょうか。なかには「場をしらけさせないように好きな人をでっち上げたことがある」という声も!

告白されてもピンとこない

恋愛感情を持たないため、告白されてもピンとこない…なんて人も多いもの。「告白されて何となくお付き合いを始めたけど、相手との価値観が合わず別れた」というアセクシャル当事者の声も多く見かけました。

「どんな人がタイプ?」という質問が苦手

言った側に悪気はないのかもしれませんが、うっすらと圧を感じてしまうこの質問。「そんなこと言われてもな~…」と困惑してしまった当事者も多いはずです。とはいえ、同じ質問をされる度に頭を悩ませていては、それなりのストレスになるもの。「当たり障りのない答えを言う」「お金持ちの人!と笑ってごまかす」という対処法で乗り切っている、という声もありましたよ。なかには「相手はこっちに強い興味があって聞いてるわけじゃないだろうし、こっちもその場限りのデタラメを言っちゃう」というツワモノも。

「好きな芸能人は?」という質問もちょっと…

「好きなタイプがわからない」と答えると、すぐさま飛んでくるのがこの質問。フォローの気持ちはありがたいのですが、これはこれで困る質問です。適当に有名なアイドルや俳優の名前を答えてお茶を濁すか、「最近テレビ観てなくて」とお茶を濁すかで乗り切った…なんて当事者も多いのではないでしょうか。

「推し」の感情と恋愛感情は別物です!

俳優やアイドル、芸人さんが好きというアセクシャル当事者も、もちろんいます。恋愛や結婚はしないけれど、仕事と「推し活」に励んでいるというケースも珍しくありません。しかし、好きな俳優やアイドルが異性だと「そういう人が好みなんだね!」「理想が高いんだね!」と言われがちなのも事実。当事者からすると推す感情と恋愛感情は別物だと確信しているのですが、説明してもなかなか分かってもらえないのがつらいところです。

交際中の罪悪感

悩んだ末、「誰かとお付き合いすれば恋愛感情がわかるかも」と交際へ臨んだことがあるアセクシャル当事者も。それゆえに、「自分の都合で相手を振り回してる」「気持ちがわからないのにお付き合いしている」と罪悪感を抱いてしまうパターンです。大きな悩みであることはわかりますが、だからといって相手の好意に乗りっぱなし…なんてことは絶対に避けたいものです。

本心を隠すスキルが上がる

悲しいかな、アセクシャル当事者は共感される経験が他の人と比べて少なめ。それゆえに、本音と建て前を上手く使い分ける世渡りスキルを自然と身につけていきます。一見すると人当たりが良く、誰とでも仲良くなれるタイプも少なくありません。はたからは「世渡り上手」とみられるのですが、言い換えれば「大なり小なり壁を作ることが上手い」ともいえるでしょう。

綺麗・カッコイイという感覚はある

アセクシャル当事者も、アイドルや俳優に対して「綺麗」「カッコイイ」と思う感覚は持っています。ただしそれは恋愛感情と直結するものではなく、あくまで美的感覚によるものなことが多いようです。なかには「『アセクシャルなのにアイドルが好きなの?』と訝しがられた」なんて経験をした人も。もちろん人によりますが、美的感覚と恋愛感情は必ずしもイコールではないのです。

独りであることへの耐性が高い

恋愛や恋人を必要としないアセクシャルは、1人でいるのが苦にならないタイプ。自認したての頃は「恋人はいらないけど寂しいって変なのかな?」と悩むものの、そこを乗り切ったら「まぁそんなもんでしょ」と驚くほど吹っ切れてしまう人も少なくありません。その結果、1人でいることや孤独であることが苦にならなくなります。お1人様での食事や映画、旅行もお手の物です。

ラブソングやラブストーリーに共感できない

ラブソングやラブストーリーは、多くの人の共感を集めるもの。しかし、恋愛感情を持たないアセクシャルからすると「?」と首を傾げる表現もチラホラ。ラブコメ漫画や映画を妙に一歩引いた状態で観てしまったり、ハッキリと「つまんない!」と感じたりする当事者も多いようです。なかには他の人の話を聞いて、「皆はこういう部分に共感してるんだ!」「こうやって自分と照らし合わせているんだ!」と衝撃を受けたことがある人もいるのではないでしょうか。

恋愛しないことは間違いじゃない!気持ちの切り替え方

「自分はアセクシャルだから」と吹っ切れたように思えても、突然の恋愛至上主義に傷つけられてしまうことは多いもの。そんなときの気持ちの切り替え方を、いくつかまとめてご紹介します。

家族愛・友愛の気持ちを思い出す

前述したとおり、アセクシャルはあくまで恋愛感情を持たない性的指向です。家族への愛情や友人への愛情・親しみを思い出して、「まぁいいか!」と少しずつ気持ちを切り替えると良いでしょう。

嫌いな人とは距離を置く

多くのアセクシャルにとって避けたいのが、「恋愛至上主義で、なおかつその価値観を押し付けてくる人」です。そんな人と遭遇してしまったら、自分が消耗しないようとにかく距離を置くのがおすすめです。勇気がいることではありますが、定期的に人間関係を整理するのも◎。相手の態度や接し方が度を超えて酷いのであれば、「こっちも不誠実に接してやるか」ぐらいの軽い気持ちでいれば良いのです。

仕事や趣味、興味のあることに没頭する

「仕事が生き甲斐」「趣味のために生きてる」という方は、存分に仕事や趣味に打ち込みましょう。その時間は、間違いなく大切なもの。「どうして恋愛できない・したくないのか」と悩むよりも、ハッキリとした「好きなこと」に没頭したほうが精神衛生上◎。はるかに建設的です。

「共感してくれる人は絶対にいる」と思う

アセクシャルはマイノリティではあるものの、けして一人ではありません。「同じ思いをしている人がきっといる」「共感してくれる人はどこかにいる」と常に思うことで、疎外感や孤独感を和らげられます。アセクシャル当事者が集まるコミュニティに参加したり、SNSを介してゆるやかにつながったりするのもおすすめです。

本音を吐き出せる場所を持つ

何でもいいので、自分の本音を吐き出せる場所を作りましょう。愚痴を言い合える当事者が集まるコミュニティや非公開のSNSアカウント、またはブログや日記などがおすすめです。誰かに聞いてもらったり、紙やデータに書き出したりすることで気持ちの整理がつきやすくなります。モヤモヤや愚痴は、飲みこみ過ぎると体に毒です。「抑え込むのが大人の対応だ」と考えすぎず、適度に吐き出せる場所とタイミングを作ると良いでしょう。

アセクシャルでもつながりは持てる?

恋愛感情がないとはいえ、「孤独死は防ぎたい」「1人で生きていける自信はない」というアセクシャル当事者も少なくありません。アセクシャル同士で結婚したり、友情婚や別居婚、週末婚などの形でパートナーシップを結んだりするパターンも見かけます。従来の結婚の形にとらわれず、ゆるくつながっていくのが理想だといえそうですね。

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